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金沢地方裁判所 平成10年(行ウ)6号 判決

主文

一  被告が原告に対して平成一〇年四月二日付けでした一般廃棄物収集運搬業の不許可処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  前提となる事実(争いのある事実については括弧内掲記の各証拠により認定した。)

1  許可申請

原告は、被告に対し、平成一〇年三月一九日、事業の範囲を「事業活動に伴う一般廃棄物(し尿・浄化槽汚泥を除く)の収集・運搬」として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)七条一項の一般廃棄物処理業許可申請をした(以下「本件許可申請」という。)。

2  不許可処分

被告は、平成一〇年四月二日付けで、「αにおいては、既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項一号及び二号に適合していると認められない」との理由で、本件許可申請につき不許可処分をした(以下「本件不許可処分」という。)。

3  不服申立て

(一) 原告は、被告に対し、平成一〇年五月一一日、本件不許可処分に対する異議申立てをした(甲三)。

(二) 被告は、平成一〇年六月一九日付けで、右異議申立てを棄却した(甲四)。

二  争点―本件不許可処分の違法性

1  原告

本件不許可処分には、次の法律解釈違反及び裁量権濫用の違法があり、取消しを免れない。

(一) 廃棄物処理法七条三項一号について

野々市町は、一般廃棄物処理を一般廃棄物収集許可業者に委任して処理しており、直接行っていないのであって、右処理を行うことはできないのであるから、本件許可申請は廃棄物処理法七条三項一号に適合するものである。したがって、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、同号に適合していると認められない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は違法である。

(二) 廃棄物処理法七条三項二号について

(1) 野々市町の定めている一般廃棄物処理計画は、許可業者を何名にするかを内容としていないから、唯一の既存業者である株式会社石川衛生公社(以下「衛生公社」という。)以外の者に許可を与えることが右一般廃棄物処理計画に適合しないということはできず、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項二号に適合していると認められない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は違法である。

(2) 仮に、野々市町が、衛生公社のみに許可を与えることを前提に一般廃棄物処理計画を作成したのであれば、右計画自体、裁量権を濫用した違法なものである。

(3) αにおける一般廃棄物処理の必要性はますます増大しているところ、原告は、α内において古紙回収業を営んでいるが、回収先の事業所などで古紙と一緒に一般廃棄物の収集処理も依頼されており、原告が古紙と一般廃棄物を同時に収集・運搬することは、資源ごみの回収の円滑、リサイクルの進展にも寄与する上、衛生公社に迷惑をかけることはなく、本件許可申請を不許可にすべき理由はない。複数の業者に許可することこそ一般廃棄物処理計画に適合する。

(4) 原告は、処分庁の教示に従って本件許可申請をし、適法に受理されたのであるから、本件許可申請の内容が廃棄物処理法七条三項二号に適合しないとする理由はない。

(三) その他

(1) 被告は、具体的な事実を摘示して根拠を示すことなく本件不許可処分をしており、本件不許可処分には、処分庁の独断による法律解釈の誤りがあって、違法である。

(2) 他の市町村では、自ら一般廃棄物の収集運搬業務を行うほか、複数の業者に対して一般廃棄物収集・運搬の許可を与えているのに、被告は、一業者に対してしか右許可を与えないとして本件不許可処分をしたものであって、これは、法の下の平等に反し、違法である。

(3) 原告は、α内において古紙回収業を営んでいるが、回収先の事業所などで古紙と一緒に一般廃棄物の収集も依頼され、それができないのであれば古紙回収契約に応じないといわれ、一般廃棄物処理業の許可がなければ事業活動ができない事態が発生するに至り、本件許可申請をしたものであり、本件不許可処分は、原告の職業選択の自由を奪う違法なものである。

(4) 被告は、衛生公社のみに独占的に許可を与えており、本件不許可処分は、特定業者に加担し、処分権限を濫用した違法な処分である。

衛生公社は、収集した一般廃棄物の処理を、有料で野々市町などの市町村により構成される事務組合の施設などに委託しているものであるから、他の業者も同様に処理を委託することが可能であり、被告において原告を衛生公社と同様に扱えない理由はない。

2  被告

一般廃棄物の収集・運搬・処理等のいうところの清掃事務は、環境保全及び公衆衛生上、極めて公益的事業であるので、市町村の固有事務とされているが、市町村長は、財政事情、清掃の技術等の経験的沿革、広域行政の必要性等に鑑み、管轄区域内の一般廃棄物を、直接又は委託により処理することが困難である場合に限り、市町村の一般廃棄物処理計画に適合する範囲で、かつ、厚生省令で定められた法律上の基準に適合した施設及び能力を有する事業者に限って、一般廃棄物処理業の許可を与えることができるのであって、その許否については、行政運用上から、広範な裁量権が認められるから、本件不許可処分は違法ではない。

(一) 廃棄物処理法七条三項一号について

廃棄物処理法七条三項一号に適合するかどうかの一般的認定基準は、(1)一般家庭から生ずる通常の廃棄物については、原則として困難とはいえない、(2)工場又は事業場から生ずる一般廃棄物については、その量が廃棄物処理法六条の二第五項により運搬を命じる程度に達するもの又はその性質等が同法三条により自家処理を命ずる程度に特殊なものは困難と認定されるが、それ以外の一般廃棄物は原則として困難とされない、(3)一般家庭から排出される通常の廃棄物についても、当該市町村が自ら収集又は運搬し、あるいは市町村以外の者に委託して収集又は運搬する体制が整わない場合は、当分の間、現に一般廃棄物処理業者が廃棄物処理法七条一項の許可に基づいて収集又は運搬しているものについて困難と認定することができるというものであり、当該市町村が、一般的廃棄物の収集等を廃棄物処理業者に委託している場合も、当該市町村により一般廃棄物の収集等が行われていることになるとするのが、同号の公権的解釈である。

事業活動に伴って排出される一般廃棄物(以下「事業系廃棄物」という。)の収集・運搬は、右基準(3)の対象から除外されている上、右基準(2)に該当するような廃棄物は、野々市町の管轄区域内の事業所からは排出されておらず、将来このような廃棄物が排出されるときも、その処理は事業者が自社で行うか、既存業者に委託するか、或いは野々市町が既存業者に委託して行うことができる。

また、衛生公社の処理実績及び将来の処理能力に問題はない。

したがって、野々市町が直接又は第三者に委託して一般廃棄物の収集・運搬を行うのが困難とはいえないから、本件許可申請は、廃棄物処理法七条三項一号に適合せず、これを不許可とした本件不許可処分は適法である。

(二) 廃棄物処理法七条三項二号について

(1) 野々市町は、その固有事務である一般廃棄物処理について、ごみ処理基本計画を定め、ごみ処理計画の広域円滑化のため、近接する石川県松任市、石川県石川郡美川町、鶴来町、河内村、鳥越村、吉野谷村、尾口村、白峰村の各市町村と松任石川広域事務組合を設立し、廃棄物の中間処理施設及び最終処分場を設置しており、独自の処理施設は有していない。そのため、野々市町は、一般廃棄物の処理において、他の市町村との整合性という制約を受けており、他の市町村との整合性がとれるよう毎年一般廃棄物の収集・運搬の実施計画を策定し、これを実施している。

事業系廃棄物の収集・運搬許可業者は少数である方が右計画がスムーズに実施できるのであって、複数業者に許可するときは無用の競争が生ずることが予想される。また、右組合を構成する各市町村は、家庭から排出される一般廃棄物(以下「家庭系廃棄物」という。)の収集・運搬の委託を受けている業者に事業系廃棄物の収集・運搬を行わせることにより、各一般廃棄物処理計画に沿った収集・運搬を行い得るのであって、管内の収集・運搬業務における連絡指導体制の徹底が図られる等の相乗効果がある。

右の事情から、野々市町では家庭系廃棄物と事業系廃棄物とを統一的に処理するについて合理的理由がある。

(2) 野々市町は、昭和三八年四月一日から、衛生公社に社名変更する前の石川郡衛生株式会社に塵芥収集運搬処理業務を委託しており、事業者らもその排出する一般廃棄物の収集・運搬を同社に委託してきたことから、野々市町は、衛生公社に対し、昭和五四年四月一日、一般廃棄物収集・運搬の許可を与えたのであって、これまでの沿革に鑑み、同社にのみ事業系廃棄物の収集・運搬、し尿、汚泥の収集・運搬、浄化槽清掃を許可し、家庭系廃棄物の収集・運搬を委託することは、合理的である。

(3) 野々市町における平成七年度から平成一〇年度までの一般廃棄物処理の実施状況は、別紙一般廃棄物処理実施表記載のとおりであって、家庭系廃棄物と事業系廃棄物の数量を個別に見ると、それぞれ実績数量が計画数量を上回った年度があるが、両者の合計の数量は、いずれも実績数量が計画数量を下回っている。このことは、両者を一体的に処理する高度の必要性があること、及びこれらの収集・運搬を同一業者により行わせるのが合理的であることを示している。

(4) 衛生公社は、野々市町の監督の下に、同町の一般廃棄物処理計画に従って、同町と一体的に事業系廃棄物の収集運搬業務を行い、生活環境保全上何ら問題をおこしておらず、塵芥車合計四四台(最大積載量一一〇・二五〇トン)を有しており、別紙一般廃棄物処理実施表記載の実績数値に鑑み、その処理能力は十分である。

衛生公社以外に一般廃棄物処理業の許可をすると、業務遂行能力の違い、業務及び業務遂行地域の選択その他種々の理由により、野々市町の一般廃棄物処理計画との整合性を欠く業者が出て、右計画どおりの業務遂行ができなくなることは必至である。

(5) 以上の事情から、野々市町では、衛生公社にのみ事業系廃棄物の収集・運搬、し尿、汚泥の収集・運搬、浄化槽清掃を許可し、かつ、家庭系廃棄物の収集・運搬を委託することを一般廃棄物処理計画のうちに取り込んでいる。しかるところ、市町村の策定する一般廃棄物処理計画は、市町村の個別事情により弾力的に内容を決定できるのであるから、野々市町の右一般廃棄物処理計画が違法であるとはいえない。

そして、一般廃棄物処理業の許可は、市町村の策定する一般廃棄物処理計画との対比において、広範な裁量権の下に、許可するか否かを決しうるものであるところ、本件許可申請は、右に述べた野々市町の一般廃棄物処理計画に適合しないことが明らかであるから、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項二号に適合していると認められない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は違法ではない。

(三) その他

(1) 清掃事務は、市町村の固有事務であり、独占であるから、その事務を委託又は許可することは市町村の行政運用の一環であり、その性格上、平等とか職業選択の自由の問題にはならない。

他の市町村において、処理業者競合の事実があるとしても、それはその市町村の事情によるにすぎない。

(2) 原告は、収集の対象とする事業者を挙示して本件許可申請をしてきたが、許可に事業者を限定する附款を付すことはできない。

第三争点に対する判断

一  廃棄物処理法七条三項一号について

1(一)(1) 市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(一般廃棄物処理計画)を定めなければならず(廃棄物処理法六条一項)、右計画に従つて、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分しなければならない(同法六条の二第一項)ところ、右事務は、市町村の固有事務であるとされている(平成一一年法律第八七号地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律による改正前の地方自治法二条三項七号、四項)。一般廃棄物処理計画は、同法による改正前の地方自治法二条五項の基本構想に即して定められなければならず(同法による改正前の廃棄物処理法六条三項)、厚生省令で定めるところにより、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み、一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項、その他一般廃棄物の処理に関し必要な事項を定めるものとされており(廃棄物処理法六条二項)、市町村が行うべき一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準並びに市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定めるものとされている(同法六条の二第二項)。

以上のとおり、一般廃棄物の収集、運搬及び処分は、市町村の責務であるから、市町村は、総合的かつ将来的な見地に立った一般廃棄物処理計画を策定し、右計画に従って、自ら直接又は委託の方法により一般廃棄物の処理を行うことが必要とされているものと解される。

(2) しかしながら、市町村が自ら直接又は委託の方法によって一般廃棄物の処理をすることが諸般の事情により困難である場合においては、一般廃棄物の処理を業者に行わせざるを得ないところ、廃棄物処理法は、かかる場合に、一般廃棄物の収集・運搬又は処分を業として行おうとする者は、収集・運搬を行おうとする場合と処分を行おうとする場合のそれぞれについて、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならないものとしており(廃棄物処理法七条一項、四項)、市町村長がその許可申請について許可をするための要件として、いずれの場合についても、当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬又は処分が困難であること(同法七条三項一号、六項一号)、その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること(同条三項二号、六項二号)、その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること(同条三項三号、六項三号)、申請者が所定の欠格事由に該当しないこと(同条三項四号、六項四号)を定めている。

その趣旨は、一般廃棄物の処理は市町村の責務に属するものであり、本来的には、市町村が一般廃棄物処理計画に従って自ら直接又は委託の方法によりこれを処理すべきものであって、業者がこれと並行して一般廃棄物の処理を業として行うとすれば混乱が生ずることとなるから、これを一般的に禁止するとともに、市町村が自ら直接又は委託の方法によって一般廃棄物を処理することが困難である場合に限り、その禁止を一部解除して、所定の要件を満たした業者が一般廃棄物処理を業とすることを許可することとしたところにあると解せられる。

(3) そうすると、廃棄物処理法七条の規定の趣旨は、市町村が自ら直接又は委託の方法によって行う一般廃棄物の処理と、民間業者が行う一般廃棄物の処理との調整を図るところにあるということができる。

右の趣旨及び同条の文理からすれば、民間業者に一般廃棄物の収集・運搬の許可を与える基準を定める同条三項一号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは、市町村が自ら直接又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいうものであると解すべきであり、許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集・運搬は、その主体はあくまで民間業者であり、市町村ではない以上、これに含まれると解することはできない。

(二) 一方、前記のとおり、一般廃棄物の処理が市町村の責務であって、市町村は混乱なくその処理を達成しなくてはならないことからすれば、市町村が自ら直接その処理を行うか、業者に委託してその処理を行わせるか、民間業者に一般廃棄物処理業の許可を与えるかについては、総合的かつ将来的な見地から、技術的、政策的に判断されなくてはならないのであって、廃棄物処理法七条三項一号が、「困難」という一定の評価を伴う文言を定めていることからしても、当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が「困難」であるか否かについては、許可をする市町村長の広範な裁量に委ねられており、逸脱又は濫用と評価される場合に限り、違法となると認められる。

2(一) そこで、本件についてみるに、証拠(乙一、五の1ないし4、七、八の1ないし6、一六)及び弁論の全趣旨によれば、αにおいては、事業系廃棄物の収集・運搬は事業者が自ら行う他は、すべて一般廃棄物処理業の許可を受けた民間業者である衛生公社が一者で行ってきたものであり、野々市町又はその委託を受けた業者がこれを行っている事実はないこと、同町が定めた一般廃棄物基本計画においても、許可業者に右の収集・運搬を行わせる旨定められていることが認められる。

右のとおり、野々市町が自ら直接又は委託の方法により事業系廃棄物の収集・運搬を行ったことはないのであるから、それでもなお野々市町が自ら又は委託の方法によりその収集・運搬をすることが困難でないと認定することは、それを正当化する特段の事情がない限り、前記判示の広範な裁量権の範囲をも逸脱するものであるというほかはない。

しかるところ、前記のとおり、同条三項一号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは、市町村が自ら直接又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいうものであると解すべきであり、許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集・運搬は、これに含まれないと解されるから、現在、衛生公社が収集、運搬していることにより、野々市町民には支障は生じていないことをもつて、右特段の事情と認めることはできない。そして、他に右特段の事情についての主張・立証はない。

そうすると、野々市町が自ら直接又は委託の方法により事業者の排出する一般廃棄物の収集・運搬を行うことは困難であるものと認められるから、本件許可申請は廃棄物処理法七条三項一号に適合するものであるというべきである。

(二) 被告は、この点について、αにおける事業系廃棄物には、「困難」の一般的基準に該当するようなものはなく、将来このような廃棄物が排出されるときも、その処理は事業者が自社で行うか、既存業者に委託するか、或いは野々市町が既存業者に委託して行うことができると主張する。

しかしながら、被告の主張するような類の一般廃棄物の場合にのみ当該市町村による収集・運搬が困難であると解すべき根拠はない。のみならず、前記認定のとおり、被告は、衛生公社には、事業系廃棄物の収集運搬業の許可をしているのであり、このことからすれば、被告は、衛生公社の許可申請は廃棄物処理法七条三項一号に適合するものと判断したものというべきであり、したがって、被告は、その掲記するような「困難」の一般的判断基準に該当する事業系廃棄物がαに存在することを自認しているものというべきである。してみれば、被告の右主張は採用できない。

3 そうすると、野々市町が自ら直接又は委託の方法により事業系廃棄物の収集・運搬を行うことは困難であるものと認められるから、本件許可申請は廃棄物処理法七条三項一号に適合するものというべきである。

したがって、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項一号に適合していると認められない」とした被告の判断は、被告に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し、廃棄物処理法七条三項一号の適用を誤ったものというべきである。

二  廃棄物処理法七条三項二号について

1(一)  前掲の廃棄物処理法の諸規定によれば、一般廃棄物処理業の許可をする場合であっても、一般廃棄物の処理が市町村の責務である以上、市町村は、混乱なくその処理を達成しなければならず、総合的かつ将来的な見地から策定した一般廃棄物処理計画を実現しなければならないことにかわりはないことから、一般廃棄物処理計画に適合するものであることが、特に右許可の要件とされたものであると解される。

そうすると、同法七条一項に基づく一般廃棄物処理業の許可の申請が同条三項二号に適合するかどうかは、当該申請に対し、許可をすることが、市町村の一般廃棄物処理を混乱なく達成し、一般廃棄物処理計画の実現を図るために適切であるかどうかという見地から、技術的、政策的に判断されるべきであって、その判断は、許可をする市町村長の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

(二)  しかしながら、昭和二九年に制定された清掃法においては、同法一五条の汚物の収集・運搬・処分を業として行う許可について許可要件が定められていなかったが、昭和四〇年の改正により、同法一五条の二において「当該市町村による汚物の収集及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」という許可要件が定められ、昭和四五年に清掃法を全面改正して制定された廃棄物処理法七条二項においては、「計画に適合するものであり、当該市町村により一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」という許可要件が定められ、昭和五一年改正により、現行の廃棄物処理法七条三項とほぼ同様の許可要件が定められたものであり、右の制定及び改正の経緯に鑑みれば、廃棄物処理法は、従前許可要件の定めがなかった当時に事実上適用されていた基準を法律に取り込み、許可要件を明確にして法的安定性を図った上、その各要件該当性の判断につき広範な裁量を認めることにしたものであると解されるから、一般廃棄物処理業の許可申請が廃棄物処理法七条三項各号に適合するか否かについては、市町村長の広範な裁量が認められるものの、適合するとは認められないとの判断に至った場合でなければ、不許可とすることは許されないものというべきである。

2  そこで、野々市町の一般廃棄物処理計画の内容を検討するに、証拠(乙一、五及び六の各1ないし4、七、八の1ないし6、九の1ないし7、一〇、一一及び一二の各1ないし6、一三の1ないし4、一四の1、2、一六)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 野々市町は、平成六年一一月、平成六年度を初年度とし、平成二〇年度を最終年度とする向こう約一五年間の基本施策について方向づけするものとして、ごみ処理基本計画を定めた。右計画は、ごみ処理の現況を分析し、基本計画を定めたものであるが、概ね五年ごとに、又は諸条件に大きな変動のあった場合においては見直しを行うものとされていた。右計画の「第三章 ごみ処理の現況」の項では、処理対象ごみの種類として①一般家庭から排出されるごみと②事業活動に伴って生ずる一般廃棄物が挙げられており、直接搬入として、個人、事業所等からの一般持込と許可業者による持込がある旨記載されているが、一般廃棄物の収集・運搬方法については、「第四章 ごみ処理基本計画の検討 第四節 ごみ処理基本計画」の項で、「(ア)収集・運搬の実施主体」として、「現在、家庭系の一般ごみ、粗大ごみ、資源ごみは委託による収集・運搬を行っている。特に問題ないので当面現状のままとする。」との記載があるものの、事業活動に伴って生ずる一般廃棄物についての収集・運搬の主体については、特段の記載がない(乙一)。

(二) 野々市町は、廃棄物処理法六条一項に基づき、毎年四月一日までに各年度の一般廃棄物処理計画をごみ関係とし尿関係に分けて策定してきた(乙五及び六の各1ないし4)。

野々市町の平成七年度一般廃棄物処理計画においては、事業活動に伴う一般廃棄物の指導方針として、「事業主自らの責務により、これを適正に処理するよう指導する。又、自ら処理出来ない場合に一般廃棄物収集運搬の許可を受けた業者に委託するよう指導する。」と定められており、収集業者として、許可業者の欄に「(株)石川衛生公社」との記載がある(乙五の1)。

平成八年度の一般廃棄物処理計画においては、事業活動に伴う一般廃棄物の指導方針として、「事業主自らの責務により、これを適正に処理するよう指導する。また、排出量の抑制、資源化に努めるよう指導する。」と定められており、収集業者として前年度と同様の記載がある(乙五の2)。

平成九年度の一般廃棄物処理計画においては、「一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項(法第六条第二項第四号)」として、事業活動に伴って排出される一般廃棄物について、「自己の責任において、処分場まで直接搬入する。または、町の許可する一般廃棄物収集運搬業者により、必要に応じた回数で収集を委託する。」と定められているが、家庭系廃棄物の収集・運搬の主体として、「委託業者(株)石川衛生公社」との記載がある他は、右一般廃棄物収集運搬業者の具体的挙示はない(乙五の3)。

平成一〇年度の一般廃棄物処理計画においても、一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項(法第六条第二項第四号)」として、事業活動に伴って排出される一般廃棄物について、「自己の責任において、処理施設まで直接搬入する。若しくは町の許可する一般廃棄物収集運搬業者により、必要に応じた回数で収集運搬を委託する。」と定められているが、右一般廃棄物収集運搬業者の具体的挙示はなく、家庭系廃棄物の委託業者としての衛生公社の名称の記載もない(乙五の4)。

(三) 野々市町は、昭和三五年一月ころ、衛生公社に社名変更する前の石川郡衛生株式会社に汚物(し尿)取扱業を許可し、昭和三八年四月一日からは、同社に塵芥収集処理業務を委託してきたが、昭和四五年には、塵芥処理工場が完成したため、同年四月一日からは、家庭系廃棄物についての塵芥収集業務を委託してきた(乙七、九の1ないし7)。

同社は、昭和四六年三月、衛生公社に社名変更したが、野々市町は、翌四七年四月一日からは、同社に対し、し尿浄化槽清掃業及び一般廃棄物取扱業(し尿)の許可をするとともに、昭和五三年四月一日には、不燃物及び粗大ごみ等の処分業務を委託し、平成四年以降は、資源ごみの収集・運搬・処理についても委託していた(乙七、一〇、一一及び一二の各1ないし6、一三の1ないし4、一四の1、2)。

また、野々市町は、昭和五四年四月一日からは、衛生公社に対し、し尿ないし浄化槽汚泥を除く事業系廃棄物の収集、運搬についても、許可をしてきた(乙七、八の1ないし6)。

前記認定のとおり、衛生公社の他に、野々市町がその廃棄物の収集・運搬について委託又は許可している業者はない。

3(一)  以上の事実関係によれば、前記認定のとおり、αにおいては、従来衛生公社が唯一の許可業者として事業系廃棄物の収集・運搬を行ってきたことが認められるものの、その一般廃棄物処理計画においては、平成七年度及び同八年度において許可業者として衛生公社の名称が挙げられている他は、許可業者の名称の記載はなく、また、平成七年度及び同八年度の一般廃棄物処理計画においても、その余の計画においても、衛生公社を唯一の許可業者とする旨の記載は勿論、これを前提としていると認めるに足りる記載もない。そして、被告が前記第二、二2(二)の(1)ないし(4)で主張する諸点をもっては、野々市町の一般廃棄物処理計画が許可業者を衛生公社の一者に限ることを前提とする趣旨のものであるとも、右計画を実施するに当たり、許可業者を衛生公社の一者に限ることが必要不可欠な要件となるものとも、到底認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

そうすると、右一般廃棄物処理計画のうちに、衛生公社のみに事業系廃棄物の収集・運搬を許可することが取り込まれているとは認められないから、これを前提に、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項二号に適合していると認められない」とした被告の判断は、被告に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し、廃棄物処理法七条三項二号の適用を誤ったものというべきである。

(二)  被告は、前記(第二、二2(二)の(1)ないし(4))のとおり、これまでの沿革や他の市町村との整合性を図る必要、並びに衛生公社の実績及び能力に鑑みると、衛生公社にのみ事業系廃棄物の収集・運搬、し尿、汚泥の収集・運搬、浄化槽清掃を許可し、家庭系廃棄物の収集・運搬を委託することは、合理的であり、野々市町の一般廃棄物処理計画のうちに取り込まれていると主張する。

しかしながら、野々市町が定めた各一般廃棄物処理計画を精査しても、事業系廃棄物の収集・運搬について、衛生公社にしか許可を与えないことを前提としていると解される内容は記載されておらず、そうしなければ不都合が生じるような内容も記載されていない。これまで野々市町の廃棄物の収集・運搬については、衛生公社が唯一の委託業者及び許可業者であったという沿革はあるものの、右沿革をもって、野々市町が、事業系廃棄物の収集・運搬について衛生公社にしか許可を与えないことを前提として一般廃棄物処理計画を定めたものと認定するのは無理である。結局、先に判示したとおり、被告が右に主張する諸点をもっては、衛生公社を唯一の許可業者とすることが右計画の内容ないし前提をなしているものとは到底認められないものというべきである。

また、右のとおり認定判断される以上、単に、家庭系廃棄物の委託業者である衛生公社のみを事業系廃棄物の許可業者としていることが合理的であるというだけでは、本件許可申請の前記計画適合性を否定する根拠とはなり得ない。

したがって、被告の右主張をもっては、前記(一)の判断を左右することはできない。

三  以上のとおりであるから、他の要素を検討することなく、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は、廃棄物処理法七条三項一号及び二号に適合していると認められない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は、その余の点を判断するまでもなく違法な処分として取り消されるべきものである。

よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 小川賢司 裁判官 森岡礼子)

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